NPO法人ARDA
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やまとアートシャベル 「揺れて音が聴こえてきそう」 

対話で美術鑑賞 2020年12月08日

先日開催された8期生募集体験会でのこと。
鑑賞の場が、個々の想像の世界を愉しみつつ共有感に満ちた溢れた、という場面がありました。

 

「豪華で、音が聞こえる感じがする。」

スクリーンに映し出された8作品の中からお気に入りの1作品として、「愛染明王坐像」(写真、下)を選ばれた方の言葉がきっかけでした。

感覚的に作品を感じていらしたようで、
「黄金色が輝いてとても豪華。台座の繊細な飾りは、揺れてシャラシャラ~と音が聞こえてきそうで。とっても綺麗じゃない?」
と、まるで愛染明王坐像のすぐ近くにこの方が立っていて、ぐるっと一回りして、その色彩の豊かさに目を奪われ、飾りが揺れ合う繊細な音色に耳を澄ませているようでした。

この方が味わっている感覚を表現してくださった時の、優しく穏やかな口調やゆったりとした仕草、愛おしいものを見つめているような表情など、この方の持つ雰囲気が、照明を落とした薄暗く静かな会場と相まると、一枚の静止画がドラマティックなものに変化して、その場に居る全員が愛染明王坐像が置かれている場にトリップし、この作品を空間ごと味わっているような豊かな時間が生まれているように感じました。

みなさんが自然とこの方に視線を向けてゆっくり頷きながら、この方が話すイメージを、それぞれが頭の中で自由に思い描いて作品を味わっている時間。
どの部分のどのような輝きを感じ取り、どんな空気の流れによってどのような音色が聴こえているのか…。みなさんの味わっている世界をとても知りたかったです。

 

 

 

 

 

 

その後2作品鑑賞を楽しみ、シャベラ―との座談会の中で、他の方から笑顔と共にこんな感想をいただきました。
「アートは五感を使って見るものだということを思い出しました。音や香り、感触などを感じながら、発想を広げて見る楽しみ方がある。以前は感覚も大切にして鑑賞していたのに、いつの間にかそうすることを忘れていたようで、最近は絵を見た気になっていただけだったかも。五感を使ったり、他の方の見方にも刺激を受けて、よりイメージが広がってとても楽しかったです!」
目で見た情報から考えるだけでなく、感性豊かに様々な角度から鑑賞を楽しんでいただけたようでした。

一つの絵を複数人で見ることで、思考や感性が刺激されて発想が広がるだけでなく、そこに居る全員の存在、表情・声・熱量・雰囲気などの言葉に表れていない思いや感覚が相まることで、より共有感のある鑑賞の場がつくり上げられるのだと、シャベラ―として貴重な体験の場に立ち会うことができました。
つい言葉を追って、言葉の共有を優先してしまいがちですが、イメージを膨らませてそれぞれが味わっている世界とその時間をも大切にできるファシリテータ―でありたいと、改めて心に刻みました。(cacao)

愛染明王坐像ほか、美術出版エデュケーショナルのSCOPEを使用