企業人にこそ、アートを通じた対話を。クリティカルシンキングを養い、問題解決の新たな力に。
片岡 久さん(株式会社アイ・ラーニング経営開発担当)
鑑賞ファシリテーター養成講座10期受講
企業研修を手掛けるアイ・ラーニングの片岡久(かたおか ひさし)さんは、同社の同僚2名と共に講座を受講しました。アーツ×ダイアローグを活かし、クリティカルシンキングを養う新人研修や、コミュニケーションを変革するためのリーダー研修を企画し、人気を博しています。対話型鑑賞はビジネスの場でどのように活きてくるのか、研修での取り入れ方も含め、お話を伺いました。
Q1:ARDAの講座を受講したきっかけは何ですか?
問題解決の場面において、思い込みに基づく意見が飛び交かったり、結論ありきの理屈論争が起こったりと、多くの組織が思考停止状態に陥っているのではという問題意識が背景にありました。そもそも、複雑化した経営課題や新しい問題を、これまでの常識や枠組みで捉えようとすれば、かえって真実が見えづらくなってしまいます。偏見や思い込みを捨て、現実をありのままに観察しながら、相手に伝わる言葉で表現することを模索する、且つ、さまざまな視点を受け入れるための方法を探していたところ、山口周さんの著作でVTSを知りました。VTSに可能性を感じ、研修に取り入れたいと、学びの場を求めて辿り着いたのがARDAの講座です。
また、私はIBMという会社にいて、欧米の「多様であることは価値だ」と考える文化が、自分の考えを「言葉」で伝えながら新しいことに取り組むための大きな力を生んでいると実感してきました。日本では違いを明確にしない傾向がありますが、均一性は新しい価値を生みません。チームワークの良さを活かしつつ、対話的コミュニケーションを通じて、「個」をたてたチームで新しい力を生んでいけないかと、長年考えを巡らせてきたことも背景にあります。
Q2:具体的にどのように対話型鑑賞を研修に取り入れているのでしょうか?
一つはIT企業向けの新入社員研修の一部として、「事実をしっかり見る」「思考や感情を言葉で表現することで、さらに思考を深める」「モノの捉え方は人それぞれ異なることを知る」といったことを目的に、対話型鑑賞のセッションを週1回30分、3か月で10回ほど取り入れています。3~4回もすると、彼らの多くは、自分がなぜそう考えたのか根拠を持って、内省しながら発話するようになります。同時に、相手がなぜそう思っているのか想定しながら話を聞くようになるため、コミュニケーションが一方通行ではない形へと変化します。さらには、平行して受講するIT研修の理解が進むという変化も起こっています。
もう一つは経営幹部やリーダー向けに、チーム内で問題解決にあたるための「コミュニケーション改革」を目的に研修を行っています。今、現場が直面する問題は新しいものばかりで、リーダー自身も答えを持っていません。チーム全体で解決策を考えていくほかないため、VTSのようなコミュニケーションを武器にしてもらいたいのです。つまり、チームの一人ひとりが思い込みを排して今起きている問題を主体的に見て、メンバーと協力して考えることで自分たちの納得解を見つける。そういった組織になるためには、トップダウンのマネジメントではなくファシリテーションが、論理的に相手をねじ伏せるようなディスカッションではなくお互いを探求し合うようなダイアローグが必要なのです。このように新しい問題への向き合い方としてVTSを体験してもらいつつ、フラットなコミュニケーションを実現するさまざまな手法を実践してもらっています。
Q3:活動の中で、どんなことにやりがいを感じますか?
言葉にしづらい状況や感情を、工夫して言語化しようとする場面に立ち会えると嬉しいです。講座では、言葉として表現できないところに思考のトリガーがあることを学びました。
言葉にすることで思考は深まり、言葉を磨く術を対話型鑑賞は与えてくれます。また、次第にお互いの意見をリスペクトする様子が見られるのも嬉しいです。新しい視点や感じ方をメンバーが話し始めると、他の参加者たちの目が輝きだす。研修後の報告会では、参加したリーダーたちが、部下がこんな風に考えている、こんなことを言えるとは思わなかったと、新しい関係性構築の可能性にワクワクする様子が伝播してきます。ある企業では、新しいコミュニケーションが一つの「文化」として定着するかもしれない、という声をいただきました。時代に応じた多様なスキルと併せ、そのベース、OSとなるような思考力やコミュニケーション手法を常に開発し続けたいと考えています。