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シンポジウムセッション3「アートを通した学び」への質問回答

展覧会・シンポジウム 2023年04月06日
Session3.「アートを通した学びーラーニングとしてのアーツ×ダイアローグ」を終えて

Session3では、学校・美術館・企業の視点から、アーツダイアローグの学びについて3つ発表がありました。3者の発表からみえてきたのは、子供も大人も、教える人も教えられる人も、専門家も非専門家もお互いに聞きあうことで、学び合いが生まれていることでした。

大和市の高島校長先生から、最近友達同士で校内の展示物について話しあうような姿を見かけるようになったのは、対話型鑑賞の事業の影響ではないかというお話もありました。子どもが日常でも関心をもってものを見て、それを他者と共有するようなコミュニケーションが生まれているようです。平塚市美術館の江口学芸員からは、ボランティアさんとの鑑賞によって新たに作品をみる視点を発見し、論文や書籍を見直したり、ギャラリートークで紹介するといったように、専門家もまた一般の鑑賞者の視点から学んでいるというお話もありました。外資系企業のビジネスマンであった片岡氏からは、社会の変化に適応するには、考える個人の醸成とその力を発揮する環境づくりの両方に対話型鑑賞が有効だと考え、新人研修と経営者むけの研修を行なっていることをお話いただきました。(三ツ木)

概要:小学校や美術館、企業研修など様々な場所で対話型鑑賞は行われています。子どもや鑑賞コミュニケーターや先生や学芸員、あるいはビジネスパーソンは、対話型鑑賞によって何をどのように学んでいるのでしょうか。今の社会に必要な学びについて考えます。

登壇者:江口恒明(平塚市美術館 学芸員)、片岡久(講座受講生 アイラーニング株式会社)、髙島裕樹 (大和市小学校 校長)、桑原和美(ARDAコーディネーター・理事)、モデレーター:三ツ木紀英(ARDA 代表理事)


質問への回答
 

Q1:対話型鑑賞を、図工以外の授業の中に位置付けることはできないのか?元々、VTSが語学を学ぶためにできたという話も聞いたので。

VTSは語学を学ぶためにできたわけではなく、周辺の小学校と連携しているうちに、移民の子達の語学力の向上を助けているのではないかと先生から報告されるようになったというのが正しい経緯だと思います。作品を「見て聞いて考えて話す」ことが、領域横断的に子供達の基礎的な学びを支えていることがわかる事例ですよね。書籍《学力をのばす美術鑑賞ヴィジュアル・シンキング・ストラテジーズ:どこからそう思う》(淡交社)では、アメリカでの他教科の実践がたくさん紹介されています。日本でも三ヶ島中学校の朝鑑賞のように朝の短時間の学習時間を使った事例もありますが、個々の先生が工夫して他教科の授業に取り入れるような事例は他にもたくさんあると思います。ARDAでもそのような流れを推進するために、教員向け会員制ウェッブサイト《アーツ×ダイアローグ》を立ち上げ、図工だけでなく様々な教科に使える作品カリキュラムを紹介しています。(三ツ木)

Q2:子ども(企業人)が美術と出会い、今後につながるきっかけを提供されていて素敵だと思います。 他方で、〈学び〉という点では単発イベント型であることから、一定の期間見続けるカリキュラムに比べて成果を認める難しさがあるように思えます。 鑑賞と対話の力を育むという観点でどのような工夫が行われている?構想がある?か教えてください。

アーツ×ダイアローグの重要な学びとは、「学び方を学ぶ」ことだと考えています。先生からは、1回の授業でも、直後の授業で多くの子が手をあげるようになったという声を聞くこともあります。あるいは、親にお願いして美術館に行ったという子もいたという報告もあります。その後の行動が変わるくらいインパクトある体験になるよう、ファシリテーターたちは練習を重ねたり、作品と椅子の配置に気を配るなど、細やかな対応をしています。ARDAとしては、1回1回の子どもの体験の質を上げるために、ファシリテーターとディテールを大事にする意識を共有しています。
また、子ども達の中に生まれた変化をその後の生活や授業で育ていただけるよう、先生と授業後に丁寧に振り返りを行っています。また、授業の後に「親子で楽しむワークシート」を配布し、家庭で学びが継続できるよう促しています。
今後は大和市での事例のように複数回の授業を増やし、継続的なプログラムを拡張していく予定ですし、本年度から始める教員向け講座では、先生自身がアーツダイアローグを学ぶ仕組みを構築していく予定です。(三ツ木)

Q3:自分のこどもの小学校が、対話型鑑賞を取り入れてくれないかなぁと思う親は増えていると思います。どういった工夫をすると良いと思われますか?

前述の《学力をのばす美術鑑賞ヴィジュアル・シンキング・ストラテジーズ:どこからそう思う》(淡交社)を先生に紹介するなど、まずは価値観を共有することからはじめてみてはどうでしょうか?そして、先生に興味を持っていただけたら、ARDAの教員向け講座をぜひお勧めしてください!半日ですぐに授業にいかせる講座になっています。しかし、先生を動かすことが難しい場合もあると思います。親子で美術館にいって対話しながら鑑賞するなど、ぜひご家庭でもお子さんと会話をしながら作品鑑賞していただければと思います。(三ツ木)

Q4:平塚美術館は学校単位で申し込みがあるのでしょうか。校長先生の権限でこのような体験も実現するということですか? このような素晴らしい体験がスタンダードになってほしいですが、まだまだ全体では難しい中どこを起点に広げていくのがよいのでしょうか。

平塚市では、年度初頭に美術館担当者が校長会で鑑賞授業の概要を説明し、学校からの要望に応じて実施しています。事業が浸透するにつれ、評判を聞いた近隣の中学校、支援学校など対象は拡大しています。平塚の場合は、美術館主体で動いていますが、大和市のように一人の校長先生から学校主体で始まることもあります。それぞれ起点は異なりますが、これはぜひやりたい!と本気で考える人が周りを説得し、巻き込んで、実現していきました。ぜひ始めたいという人が起点になって、実現に向けて動いていただければと思います。(桑原)

Q5:本物の作品を学校に持って行くのでしょうか? その作品はどのように選定されているのですか? 子どもたちは本物が教室にきたときの反応は?

基本的に美術館に来ることを前提とした学校での「事前授業」なので、作品を持っていくことはしていません。アートカードを使った小グループ活動や、みんなで対話しながら鑑賞する授業を通して、子どもたちが美術作品に関心を向け、「もっと見たい!」「本物の作品を見てみたい」「美術館が楽しみ!」という気持ちになって欲しいと考えています。学校で図版を見て興味を持っていた作品が、実際には予想を超えて大きかったり、色の印象が違ったり、もの凄い迫力だったり、期待を超えた驚きや小さな気づきは、美術館体験をよりリアルで鮮明なものにするかもしれません。美術館の最後「ひとりで作品を見る時間」には、それぞれが自分なりのスタイルで作品と向き合い、じっくり味わう時間を過ごしてくれることを目指しています。(桑原)

Q6:社内で行う場合、ファシリテーターの条件として、受講者と違う職場、といったような工夫みたいなものはありますでしょうか

(回答者:片岡氏)二つのケースが考えられます。社員のクリティカルなものの見方を育てるために対話型鑑賞を行う場合、ファシリテーターが上司や先輩だと、それだけで先入観や既に確立されている関係にとらわれて、オープンな場が作りづらいことがあるので、社外の人や普段交流のない人がファシリテーションをした方が、プログラムに入りやすいと思います。私たち研修会社の講師がお客様企業の社員の方々の対話型鑑賞に、ファシリテーターとして参加させていただく理由の一つはこの点にあると思います。
一方で対話型鑑賞の場は、複数の人たちが、ファシリテーターの問いに導かれながら、メンバー相互が多様な意見を出し合うことで、個人のクリティカルなものの見方を刺激し合いながら、オープンでフラットな関係を生成する、とても貴重でクリエイティブな場です。上司、あるいはリーダーの方にファシリテーションのスキルを身につけていただき、同じ組織やチームの関係者全員が、仕事の場においてもオープンでフラットな関係を作る機会にしてもらいたいと願って、マネジメント向けのワークショップを作りました。上下関係ではない、新しいリーダーシップの形を、対話型鑑賞によって作っていくことができると考えています。
 参考になったのは三ヶ島中学校の事例で、「この三年間の対話型鑑賞の取り組みで、一番成長したのは先生方だった。」との校長先生のコメントでした。先生が朝会で対話型鑑賞のファシリテーターをやり始めると、積極的に話す生徒とそうでない生徒がいました。「その差が生まれるのは、先生と生徒たちとの信頼関係の違いからだ」と気づいた先生は、生徒たちとの信頼関係を高めるために、授業でのコミュニケーションの仕方を、以前より双方向のダイアローグ型に変えたそうです。それによって対話型鑑賞の時間での応答だけでなく、授業での生徒たちの理解度の向上の手応えも感じることができたとのこと。対話型鑑賞を習慣化することで、対話型鑑賞の時間だけでなく、本業の授業でのコミュニケーションが変わる、それによって先生と生徒との関係が変わっていったのと同じように、企業での対話型鑑賞の試みは、上司・部下の関係をよりオープンなものにすることが、この対話型鑑賞への取り組みで、可能になると思います。

Q7:京都造形でもARDAでも学んだとおっしゃっていましたが、それぞれの講座の違いはどういったものですか?

(回答者:片岡氏)京都造形大学では、ファシリテーターの養成講座を受講することができず、学生たちのファシリテーションの鑑賞者役として、二度、京都に伺いました。また、対話型鑑賞を社会人研修のカリキュラムの一部にすべく、スタッフの方と話し合う機会を持ちましたが、その当時は競争相手と思われたのか、ご一緒に仕事をするに至りませんでした。今はおそらくビジネス界へのアプローチについての状況が変わっているとは思いますが、アルダさんとの違いがあるとすれば、大学という学校法人の組織の持つ特性と、アルダさんのNPO法人という組織の特性からくる違いが、プライベートとパブリックの違い、公共性というか、オープンな姿勢やアクセスの容易さの違い、垣根を守る立場と垣根を低くする立場の違いなどに現れるのかなと思います。これはあくまでも研修企業としてお付き合いしようとするときのことで、個人としてファシリテーターを目指す時には、また異なったものかもしれません。

 


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