NPO法人ARDA
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28年度港区ふれあいアート 前沢知子さん『からだでお絵かき!』

アートワークショップ 2017年04月01日

「うわぁ!」

驚きの歓声があがり、アーティスト前沢知子さんによる全3回の保育園児ワークショップ『からだでお絵かき!〜描いて、積んで・色いろ出会うキッズルーム〜』の1回目が始まりました。

2つに折った画用紙の片方に絵の具を垂らし、ペッタンとして開くと、模様が現れる。デカルコマニーという技法です。図工の授業で習った方もいるでしょうか?1回目のワークショップは、このデカルコマニーを使って絵の具と遊びます。けれど、前沢さんのデカルコマニーは図工の授業で習うのとは少し違う様です。紙を閉じている時に絵の具の変化を「想像」し、開いた時に「驚く」ことを繰り返しながら、初めは緊張気味だった子どもたちの顔が少しずつ輝いてきました。

やってみよう。びっくり!

こんどはこうしてみよう。うまくいかない!

もういっかい。わあ!こんなになった!

子どもたちの心の声が漏れてくる様です。

なんどもなんども絵の具を重ねていくうちに、画用紙の上は絵の具の沼のように…。

 前沢さんは、子どもたちの表現を、危ないことがない限り決して途中で止めません。その様子を見ていらした先生も、すぐにその様子を察して見守ってくださいます。小1の子を育てている筆者も、普段なら「やめて〜!」と言ってしまいそうな気持ちをぐっと飲み込み見守ります。そうしているうちにも、子どもたちの手の中にある「えのぐ宇宙」はテーブル、床へと広がりながら、みるみるうちにその姿を変えていきます。いつしかその美しさに、息を飲む筆者でした。

「こちらまで、楽しい!楽しい!という声が聞こえてきましたよ。部屋に入って行くのをためらうくらい(笑)」と職員室にいらした園長先生からも感想をいただいた1回目でした。

さて、10日後、ワークショップ2回目の日です。

「どうしても『ふれあいアート』に行きたいと泣かれてしまって…(笑)」今日はお休みの予定だった子が、急遽ワークショップの時間だけ登園してくれました。お父さん、すみません!でも、嬉しい!今日も、たくさん遊ぼう!

2回目は、アーティスト前沢さんの真骨頂!『からだでお絵かき!』の日です。ホール中に敷き詰められた巨大な紙を見た子どもたちは、普段とすっかり変わってしまったホールの風景を不思議そうに眺めています。でも大丈夫。「よごれてもいい服、着てきたよ!」「お母さん、汚してもいいって!」お家の方から、しっかり勇気のタネをもらってきている子ども達です。

足でスタンプ!手でスタンプ!

 

 

 

 

 

 

からだでお絵かき!

「お花のうえにいるみたい」

「ここは街だよ」

「うちゅう!ほら!星がたくさん!」

「この箱をつくってるの、ちょっと、そっちもぬって」

 

真っ白だった巨大な紙がそこにいる子ども達のカラーに染まっていきます。

 

  「手、洗ってもいい?」聞いてきた子がいました。いいよー、もちろん。綺麗にしようね。少し疲れてしまったみたいです。綺麗になってスッキリして、巨大な紙には入らずに周りを歩き始めました。それを見ていた前沢さん、「もう一回やろうよ」とは誘いません。「見ている、周りを歩いている、それも重要な参加なんですよ」それでも、ふとした瞬間に、また自分の遊びを見つけていました。だれも置いていかない。それぞれのペースを大切に。そんなワークショップの場を前沢さんと子どもたちが創っていきます。

* 

思う存分、絵の具だらけになった2回目からさらに10日後、3回目、最後の日です。

前回作った作品は、先生がホールに10日間置いておいてくれました。

「さあ、もう一回じっくりみんなの作品を見てみようか。何が見える?」いろんな見立てを行いながら、「作品鑑賞」を楽しむ子どもたち。鑑賞しながら想像を膨らませることで、また次の創作意欲がむくむくと湧いてきます。「鑑賞/行為の成果を見ること」と「制作/手を動かすこと」の良い循環が次の新しい発想や模倣を生み、制作の集中と楽しさが持続していきます。この日は、前沢さんの予想を超えて、子どもたちが制作に没頭し、たくさんの豊かな作品が生まれていました。最後に、できた作品は園内のいろいろな場所に展示させてもらいました。

「でも、これで終わりじゃもったいないです」と前沢さん。「これから、この上にもっと描いたり切ったり貼ったり。この作品を、素材として味わい尽くして無くなるまで、日常の保育で活用してくれると嬉しいです」

「この調子だと、まだまだ制作が続きそうですね」担任の先生も笑顔で子どもたちを眺めていました。

 

 

 

 

 

  (文・写真/こし)

アーティスト・前沢知子 美術家、美術教育研究。「美術から子育てを学ぶ会」会長、「前沢知子スタジオ」代表。上野の森美術館、国立国際美術館、東京オペラシティなど国内外で展覧会を多数開催。また子育て支援センターなど様々な施設で「描画活動と発達/コミュニケーション」などをテーマにワークショップや講演会、研修会を多数実施。「美術と子育てと地域」の連帯に取り組む。子ども&親子の絵画教室も主催する。